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スタッフブログ

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インドネシア バリ ダイビング事故から、 安全とダイビングを考える。

加藤大典ブログ

2月15日午後、バリ島でのダイビング事故がありました。7名の日本人ダイバーが行方不明となり、多くのメディアに取り上げられました。

ここではこの事故の分析や非難をするのではなく、
ダイバーさん、ノンダイバー(ダイビングしない方)さん、これからダイビング始めたい方、家族や大切な人がダイバーだったりダイビング始めたいと思っていて、心配している方に向けて、安全とダイビングについてコメントしたいと思います。
ダイビングインストラクターとして、ダイビングショップ経営者として、いちダイバーとして、ありきたりのことしか言えませんが。



はじめに今回の事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りします。そしてまだ行方不明な方の無事をお祈りします。


今回の事故の概要

ニュースやSNSで様々なことが言われていて、内容がいまいちわからない方も多いと思いますので、簡単な概要と解説を。

●事故者 : 現地ショップの日本人女性インストラクター2名、日本からの引率の女性インストラクターと女性ゲスト4名。合計7名

●海域 : バリ島のヌサペニダ島周辺 バリでも有名なダイビングエリアで多くダイバーや観光客が訪れる場所。マンタやマンボウなどの大物に会えたり、サンゴ礁がきれいで潮流が速くドリフトダイビング(後程、説明します)が楽しめるエリア。

●ダイビングスタイル : ドリフトダイビング ボートダイビングのスタイルの1つで、どちらかというと上級者ダイバー向けのダイビングスタイル。船を固定せず、潮流などの流れに身を任せながら水中を楽しみ、ダイビングを終えるころ水中から目印の浮き(オレンジ色で長くて目立ちやすい)を打ち上げ、船に知らせ回収してもらうスタイル。ドリフトダイビングはダイナミックでエキサイティングでもあるのでフリークの人も多い。上級者たちの間では日常的に行われているダイビングスタイル。
潮の流れに身を任せているときは楽ちんですが、基本的にこういったダイビングではもしもの時の為にある程度の泳力や高い潜水技術が必要です。

※ドリフトダイビングの以外によく行われるボートダイビングのスタイルに、アンカーリングやステーションと呼ばれるボートを(錨や定置ブイで)固定し一拠点を中心に遊ぶスタイルがある。これは初心者向けといわれている。停泊するボートの周辺を潜るダイビングなので、こちらの方がどちらかというと漂流事故は起こりにくい。しかし、こういった停泊型であっても潮流が速い場合はハードなダイビングとなることもある。

●事故までの状況 : 事故当日は、波が高かった、水がにごっていた、潮流がとてもはやかったなどの情報がある。(まだ正確なことは分かりません。)

●事故原因 : 海況不良によりダイビングボートのキャプテンとクルーがダイバーを見失った。ロスト後、もっと早いタイミングでショップや警察などレスキューを要請すべきところを怠った。※コンディションがよくなくてレスキューが出せない状況だったとの情報もある。

●事故経過 : 事故発生から2日後の17日、ヌサペニダ南端マンタポイント付近の崖の上などで5名を発見。(幸い雨季のため、葉についた雨水などを飲んだりしてなんとか生命維持できた。)そして事故発生から3日後の18日、1名のご年配の方が遺体で発見。あと1名(現地ショップインストラクターでショップ経営者)いまだ行方不明。

僕も昨年の10月に事故現場をショップツアーで潜っています。バリでは何度もダイビングを行っていますが、通常でもこのエリアの潮流はとても速いし、水温も少し低めであることが多い。そしてこのエリアは、たくさんのダイバーがダイビングを普通に楽しんでいるということ。ダイビングサービスもダイバーも基本的に慎重に計画を立てて潜りますから、めったに事故は起こらない。ではどうして事故が起きてしまうのか、考えていきたいと思います。



安全なダイビングを行うためには。

趣味でダイビングやインストラクターしている人も、プロとしてガイドやインストラクターしている人も、根底にはたくさんの人に海の中の世界を見てほしいという純粋な思いってあると思います。だからダイビング楽しんでいるダイバーなら、ダイビングしない人にはダイビングすすめたくなってしまうものです。

ではダイビングは危険はないのかと言われたら、ダイビングには潜在的には危険が存在します。

スキューバダイビングは呼吸装置を使用することで呼吸ができ生命が維持されます。とても器材に依存するスポーツなんですね。そしてその使い方をマスターしていない未経験者や初心者さんは、インストラクターなど信頼のおける安全管理者がいないとしたら、穏やかな海域であっても簡単に命を落としてしまう可能性があります。

極論から言えば、ダイビング事故に遭いたくなければダイビングしないことだと思います。

それは、交通事故に遭いたくなければ、道路に出ないで家に閉じこもっているのと同じ理屈です。(これはダイビングが好きなダイバーだからそう考えるのかもしれません。)

基本的に道路を利用しないと人は生活できないかもしれません。ですから交通事故というリスクがあっても道路を日常的に利用していると思います。

ダイビングはやらなくても生活に困ることはありませんから、やりたくない人はやらなくてもいいものだと思います。

ダイバーの私は、もちろんダイビングで死にたくありませんし、一緒に潜る仲間、お客さんも絶対に死んでほしくありません。そして大好きなダイビングを長く続けていきたいですし、その魅力をダイバーやダイビングを知らない人たちに伝えたいという思いももってダイビングインストラクターを続けています。


安全なダイビングを行う秘訣は、簡単に言うと、『余裕』を持つことです。

ダイビングの潜在的な危険を取り除いたり、回避するには、『余裕』がないといけません。
この余裕とはダイバー自身だけのことではなくて、周辺のバックアップやサポート体制すべて含めてです。

例えば、身体障害者の方のためのダイビングスタイルもあります。これには特別なノウハウやたくさんのボランティアスタッフという『余裕』があるから、成り立っています。

私のショップのゲストには、9歳から75歳までのいろんなダイバーが在籍しています。そしてオープンして14年間無事故です。これも『余裕』を考え、無理してこなかった結果だと思います。
これはダイバーのレベルに合わせて、もしも、何かあったら、私たちインストラクターが助けられる範囲はどれくらいだろうと予測し、カバーできる範囲でダイビングを組み立ててきたからだと思っています。

また僕は水深100mに潜ったり、地下水脈や沈没船の中を探検したりしていて、極めてリスクが高いテクニカルダイビングを趣味にしている。この分野になると潜在的な危険もとても大きくなりますので、無謀なダイビングと思われがちです。しかし実際にテクニカルダイビングは十分すぎるトレーニングと知識、経験、専用の器材などでリスクを最小限に抑えているので『余裕』が作れているのです。


この『余裕』は、シュチュエーション、ダイバー、サポート体制(ダイブリーダー、ダイビングボートやキャプテン、ボートクルー、その地域の緊急体制など)で大きく変化しますから、ダイブリーダーは、常に状況を把握し、最悪を想定しながら、命を守るために『余裕』を持たなければいけません。僕はダイビング歴が23年になりますが、無事故でいられたのは、なにかしらの『余裕』を持ってきたからだと思います。

僕が大学のダイビング部のころは無茶もしました。それはたまたま『ラッキー』で命に関わらなかっただけかも。しかし、大学の潜水プールでとても厳しい素潜りの特訓を受けていたので、それが『余裕』となり、命を守ってくれていたとも考えています。
インストラクターになって僕が就職し修行したダイビングショップは、安全管理に対してとても厳しく、その教えを理解したとき、トレーニングされたダイバーと比べ、トレーニングされていないダイバーのサポートというのは、環境も含めてインストラクターには十分な『余裕』が必要であると感じました。


ダイバーさんのレベルやタイプ、そしてサポート体制を分析すると

ダイバーに関して
・経験の多い少ない。
・しっかりしたトレーニングや知識を受けているかいないか。
・気持ちに恐怖心のある人、自信がありすぎ過信している人。
・体力・泳力があるかないか。
・スキンダイビングができるかできないか。
・年齢も含めた健康状態。
・器材を使いこなしているかどうか。
・環境に適した器材かどうか。

サポートに関して
・インストラクターなどの安全管理者がいるかどうか。
・安全管理者としてどれくらいのレベルか。
・安全管理者としてその海域に対して熟知しているかどうか。
・ボートキャプテンやクルーの安全管理者としてどれくらいのレベルか。
・ボートや施設などの人工的環境がどの程度か。
・その地域全体としての緊急時の対応レベルはどれくらいか。


ここにリストアップしたようなことと、海洋状況やダイビングスタイルに対して、『余裕』のある組み合わせをしてそれに基づいて計画潜水を行い、潜在的な危険を最小限に抑えていくことができます。



イージーなダイビング。

まず、上級者向けなダイビングの話をする前に、比較的イージーに行えるダイビングについてお話ししておきます。

標準的な品質のダイビングスクールでダイバーになり、穏やかな海域で、しっかりとしたサポート体制のもと、行うダイビングは、とても安全であり『余裕』があるということ。

まるでピクニックのような手軽なダイビングスタイルも多く楽しまれている。
この範囲であれば、最低限のスキルと良い健康状態であれば、とても安全といえる。

遊園地で遊ぶ感覚に近いと思う。それはサポート側の『余裕』によって成り立っていることを理解してほしい。

ただし、絶対心がけてほしいのは、過信しないことです。イージーな環境でも『余裕』が足りなくなれば、事故が起こり得るということです。

こういった一般的なダイビングから、もうひとつ上のダイビングを見つめてみたいと思います。


安全を具体例から考える。

『余裕』を作る組み合わせについてお話ししましたが、具体的なことをいくつか例に挙げたいと思います。

例1
私がどこかツアーを組む場合、『余裕』を作るために、まずどんな目的のツアーにするのか、ではその目的のダイビングを行うには、バックアップ体制のきちんとした現地の受け入れ先はどこか、またどの程度なのか。募集するダイバーのレベルは最低どのレベルに限定するべきか。など条件を絞り込んでいきます。また初めて行く地域、初めての現地サービスの場合は特に、最悪の想定を考え、その場合の対処を行うためには、どの程度の『余裕』を作っておけばいいのか考えます。

例2
私がよく行く伊豆の大瀬崎にはセルフダイバーさんを見かけます。初心者を含めてバディダイビング(二人組で潜ること)している方、バックアップを持たないでソロダイビング(一人で潜ること)している方などもいれば、きちんと『余裕』をもってセルフダイビングを楽しんでいる方もいます。
ちなみにレクリエーショナルのダイビング指導団体の考え方は、バディシステムといって二人組で安全性を確保するという考え方です。
ではまずは、初心者さんのセルフダイビングについて考えてみます。まず初心者さん同志のバディダイビングには何かあった時の『余裕』がありませんからお勧めしません。経験とトレーニングが不足しているうちは、信頼のおけるガイドやインストラクターと潜るべきだと思います。
また、経験豊富なダイバーさんが、まだ潜り慣れていない初心者さんを連れている場面も見かけます。この時に注意してほしいのは、その経験者の方が安全管理についてトレーニングをうけているかどうかです。自分が潜れることと、まだ未熟な人のフォローできるのは別次元です。これも『余裕』がない状態なのですね。
ではソロダイビングが危険なのかというと、テクニカルダイビング的なバックアップがあれば一人でも『余裕』を作ることができます。ソロダイビングを許容してくれる環境が日本では少ないことも伝えておきます。



ダイバー自身が認識しておくべきことを少しまとめておきます。

・色々なダイビングがあり、それぞれレベルがある。レベルごとに求められる知識や技術、体力が異なるし、体調管理は必須である。

・自己のレベルにあったダイビングをするべきであるし、それを見極め提案してくれるショップや現地ガイドを見極める必要がある。

・自己のレベルが目的のダイビングに足りていないのであれば、スキルアップのトレーニングが必要であるし、それを実現するための指導者(インストラクター)が必要である。

・全てをインストラクターやガイド任せにするのではなく、自分の力量を把握すること、自分の身は自分で守るという意識もスキルアップには必要である



ダイビングサバイバルという考え方。

安全なダイビングは、そのダイビング全体としての『余裕』によって生まれるとお話ししました。

しかし私たちが遊ぶ海は、時に荒れ狂う大自然であるということを忘れてはならない。
今回のバリの事故も現地を熟知する関係者の方々でも、予測困難なシュチュエーションであったのかもしれません。
ダイビングがまだまだマイナーであり、その絶対数から、交通事故のように日常的に潜水事故が起きているわけではないが、今回のような事故は存在する。
私も安全ダイビングについて偉そうに語っていますが、『余裕』の組み合わせの歯車が狂ってしまったら事故を起こしてしまうかもしれないと常に慎重であるべきと肝に銘じています。

ダイバーのみなさんに考えておいてほしいことはダイビングサバイバルです。

もしもの最悪の事態になった時に、自分自身でどのような対応ができるのかです。
海況の問題やサポート側のダイビングボートなどの不注意によって、危険にさらされることもあるかもしれません。

その時に自分の能力で何ができるのか考えてみてほしいです。その時に『余裕』があるのかです。
もしも体力的に、年齢的に、不安を感じるのであれば、一緒に潜るガイドやインストラクターに、最悪の状況のとき、私の不足する部分をどうやって補ってくれるのか『余裕』をどう作るのか確認すべきだと思います。信頼のおけるプロなら根拠のない「大丈夫です!」は言わないと思います。

また自分の命は自分で守りたい。安全管理者に頼らず、もしくは頼れない環境で潜るのであれば、自分の力量を把握し、必要なトレーニングを受け、最悪の事態に備えるべきだと思います。

ぜひご自身のダイビングスタイルに対して最悪の事態を想定してみてください。



安全なダイビングを行うためのメンタルケアと指導。

今回、潜在的なリスクとか、ダイビングサバイバルとか、未経験者さんや初心者さんが、恐怖を想像してしまったら申し訳ないです。

初心者さんでも上級者さんでも、海に対する恐怖でトラウマを抱えている方もいらっしゃります。
えもしれぬ不安感とか、未確認不安要素とか呼ばれており、本来あるべきリラクゼーション効果の高いダイビングができないタイプの方もいます。

全く根拠のない恐怖心を抱きながら潜ることもストレスとなりますし取り除くべきだと考えます。ただし海に対する怖さは忘れてはいけないと思います。

私たちインストラクターは、ダイバーさんたちのメンタルケアといいますか、正しく良い心構えでダイビングを行ってもらえるように、ダイビング指導を行っていかなければいけません。
また、そんな不安を抱えているダイバーさんたちがいらっしゃりましたら、私たちもご相談にのっていますし、自分の『余裕』を作るためのトレーニングや周りの『余裕』とはどのようなものかダイビングスクールとしてレベル別に指導を行っています。ぜひお気軽にお越しください。地域の違う方でしたら、信頼のおけるインストラクターさんをご紹介もいたします。


Have a good & safe dive!

evis 代表 加藤大典


written by かとう だいすけ